5.健康住宅の条件

1)寒地対応・・・高断熱高気密住宅


高断熱・高気密住宅とは断熱材を厚く設けた結果、省エネルギー住宅が完成したと思ったら、隙間風が侵入してきて意外に寒く、思わぬ燃費もかかることに居住者が気ずき始め、その後セッセと隙間を塞ぐこと(気密化)に注力した結果、できたものである。しかし、寒地では室内外に30℃もの温度差が生じるため、わずかな隙間からでも外気が侵入すれば、寒さと燃費の増大を招く。そのため本格的に隙間をなくす構法を考え出した。それが高気密住宅である。

人が生活する限り空気は汚れるため、汚れた空気を排出しながら外気を取り入れる。その際、新鮮な外気は、居住者が長時間いるところから取り入れ、最後は、厨房、トイレ、浴室などの空気の汚れている(多湿もこの概念に入る)室から外に排出する。その際、給気量は安全と健康を保てる量を確保する。このように断熱化を十分行い外の風が強くても隙間から冷気の侵入し難い住宅は、以前と比べればそれだけでも寒さの存在しない住宅である。その結果、わずかに暖めるだけで全室20℃程度の温度になってしまうのが高断熱・高気密住宅である。

一方、従来の住宅は、冬になれば暖房室にのみ人が集まって狭く住んでいたり、寒い北側の部屋やトイレ等に行くのが億劫である。最近の熱的に高性能の住宅は、全室から寒さが取り除かれて空間が広々と使用できるようになり、吹き抜けも多用されるようになっている。高断熱・高気密住宅の一般的な室内イメージは、窓が小さいために外に対して開放感を持たない住宅であるが、室内に目を向ければ吹き抜けがある等広々とした開放感にあふれる空間を有している。また、高齢者にとっては、室内に寒暖の差が無いから、体の面で安心して居住できる健康住宅である。そのような意味では、さすがに冬の長い北欧・カナダ等で確立された住宅のコンセプトである。

高断熱・高気密住宅は熱を徹底して逃さない住宅造りであるから、壁に対して1520倍も逃げる1重ガラスを高性能な複層ガラス(図7、8)にした上で、さらにできる限り小さくすることが寒地における住まいづくりの基本型である。しかし、今後は自然エネルギーの有効利用(パッシブソーラー化)の観点から、南面に大きな開口部を設け、日中の太陽熱・光をできる限り取得し、夜間にはそれを逃がさない開口部の工夫がなされてくるだろう。

図7●暖房時の単板ガラスと複層ガラスの室外面の温度比較

外から赤外線カメラで撮影(撮影:福岡大学須貝研究室)

室内外の温度差を20℃にして実験

向かって右側は単板ガラスのため、室内の熱が外に逃げており、ガラス面の温度 が高くなっている。左側は熱が逃げていない。この場合、ガラスよりアルミサッシからの失 熱が多い。
図8●暖房時の単板ガラスと複層ガラスの室内面の温度比較

単板ガラス

室内ガラス面温度が低く、また窓付近の床面温度も低い

複層ガラス室内ガラス面温度は単板に比べて高く、また床面温度も高い

 

2)暖地対応高遮熱・気密住宅

暖地においては、冬季はもとより期間の長い春、秋に外気や太陽を部屋中に一杯に入れたいし、初夏の風を入れることによって、できるだけ冷房の期間を短くした高遮熱・気密住宅の造り方を計画しなければならない。その際問題になるのは、開口部であるから、複層(遮熱)ガラス+遮熱サッシにして、できるだけ風通しを配慮した位置に、また明るい空間となるような最適な位置に大きく設ける事が総合的居住環境の向上の視点から望ましい。特にその地域の夏季における風向き、かつ夏季の遮熱対策を考慮して開口部を計画するのがキーポイントになろう。通常、地域の寒暖によって、どの程度の高断熱・気密住宅にするかを検討しているが、もう一つの判断基準は都市内に建つ住宅であるか、否かということではなかろうか。騒音の大きい、空気の汚れた都市内の住宅には、もはや爽やかな外気、静かな環境は存在しないケースが多いため、寒暖の地域に拘らず、防音 性を高めた高気密住宅で空調完備の住宅をつくることが最適な選択になろう。次に最近、W地域に建てられた高断熱・高気密住宅で、夏季に暑くて冷房がきかない。あるいは、暑くて寝れないとのクレームの生じた住宅を調査した。その原因は、高断熱・高気密住宅が暑い地域から生まれたものでないために、暑さへの対策が乏しいことに起因していた。その主要な原因は次のようであった。

窓ガラスから侵入する日射熱量が正しく負荷として計算されていないためクーラー選択が適切でない。

*  日射面における窓ガラスの選択が寒地用の複層ガラスであり、日射の侵入を防止する遮熱型ガラスの選択ではない

* 遮熱ガラスを選択したとしても、夏季の日射量は大きなエネルギーを持っている。例えば天窓を設ける場合は遮熱ガラス
   を用いたとしても、相当の日射が侵入するため、非日射面(北側)
に設けるか、あるいは遮熱ガラスを使用した上で、
   さらに効果的な日侵入防止策も追加する必要がある