2.湿度環境(湿度と疾病)

1)湿度と各種アレルギー

1-1)ダニ

アレルギー疾患の種類には、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、結核炎などが挙げられる。患者数は30年前位から急増しており、現在では国民の3人に1人はアレルギー症状であるといわれている。

年齢別にアレルギーをみると、0〜2歳までは食物が主原因であり、2歳を過ぎると圧倒的にダニが主原因であるとされている。さらに最近では、アレルギーにはカビ、化学物質が関与しているとされている。

アレルギー原因となるダニの種類として、ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの2種類がある。このダニは戦後30年間(1950年代後半から1980年代後半の比較)で、約3倍程増加したことが知られている(※3)。その理由は、近年のアルミサッシや新建材(大 型パネル化)の使用による住宅の気密化、水廻り部の室内への設置化、エアコンの普及による通年の温度較差の少ない住環境化や湿気を出す生活用式化がダニの繁殖に適合していたことが挙げられる。

一般に、ダニの生育条件および繁殖場所をみると、温度25〜30℃、相対湿度60%以上で、畳、絨毯、寝具、室内塵中などに繁殖する。(図4)

図4●家屋内の床材・素材別ヒョウヒダニ及びヒョウヒダニアレルゲン分布(※4)

アレルゲン=種々の動物、植物由来の物質で、各種の器官から侵入し、喘息発作、枯草熱、じん麻疹、湿疹のアレルギー型の症状を起こさせる物質。

 

1-2)カビ

カビの発育条件は、適温20〜28℃で、高温に弱く、60℃では短時間にて死滅し、相対湿度75%以上、栄養分、酸素のあることが条件となる。(※5)。その発育防止のためには、それらの1つを除けばよく、温度の調整、栄養分・酸素の除去は困難であるため、相対湿度を高くしない建築的・設備的・住まい方の対策が必要である。住宅におけるカビの発生場所としては、浴室、トイレ、洗面所、台所や室内の低温部、例えば外気に面した家具裏面、押し入れ等の結露発生の場所である。

カビによる人体影響を考えると、壁に繁殖したカビの胞子は1cu(ほぼ10円玉1個分の面積)あたり1億個以上もあり、その大きさは、数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)であり、極めて軽いため容易に空気中を浮遊し、呼吸器官や消化器官を通じて人間の体内に侵入する。人間には、免疫力があるので、健康であればカビの胞子が体内に入っても、すぐに真菌症に冒されることはないが、免疫力の弱い老人や子供、何らかの病気を持っている成人、ストレスやその他で体力が衰退している人などは、カビに対する抵抗力が弱まり、真菌症になりやすくなる。特に糖尿病などの慢 性病、もしくは癌、血球病、再生不良性貧血、白血球減少症などの血液性疾患を持つ患者は、カビの感染によって死に至ることも多く、北里大学の発表によれば、人の死亡の10%はカビが直接または間接の原因になっており、糖尿病の慢性疾患の患者が亡くなる場合のほとんどが真菌感染症であると指摘している。

窓面での結露は毎朝の水滴取りの手間が面倒なだけでなく、窓台・窓下部の土台等を腐朽させ、建物の短命化につながる。また、窓周囲にカビが繁殖し、それが人体への悪影響につながることについては前述の通りである。次に湿度が人体に及ぼす影響としては、相対湿度30%以下では、アトピー性皮膚炎の悪化、鼻や喉が乾燥し荒れて細菌に感染しやすくなる、一方ではインフルエンザウイルスの生存率が高くなること(図5)、静電気が起きやすくなることが挙げられる。また、省エネ基準による、W地域では非暖房室の外気に面する、特に押入の内側の壁、家具裏面などでの結露防止の観点から、暖房室の相対湿度を60%以上にしないことが条件である。ASHRAE報告書(19 85年、図6)では相対湿度とカビ、ダニ、バクテリアとの相関を示し、相対湿度が高くても、低くても問題があるとしている。同図から、暖房時の室内の相対湿度は45〜55%位が望ましい。

図5●湿度とインフルエンザ・ウイルスの生存率(※6)

図6●相対湿度と微生物等の相関図(※7)