1.熱環境(温度と疾病)


温度と脳卒中

我が国では、戦前に猛威をふるった結核に代表される感染症が戦後急速に衰退し、それにかわる脳卒中、癌(悪性新生物)心臓病などの成人病が台頭した。脳卒中は他の成人病に比べて戦前から高く、1970年にピークに達した。その後、減少の傾向を示し1981年には、癌に取って代わられた。さらに、1 985年には、心臓疾患による死亡率よりも小さくなり第3位まで下がってきたしかしながら、依然として脳卒中は、3大死亡原因の1つである。(図1)

脳卒中は、冬期に集中し、東北地方に多いことは良く知られているが、北海道は低い。その理由として断熱・気密化が徹底している上、室内が広く暖房されていることがあげられる。寒さに対して、足部は直接低温部に接するため、ヒヤッとした感じが体全体に走り、高齢者ほどコールドショックを受けて血圧が急激に上昇し、脳卒中の危険性が増す。(図2)
(図2)●冬期、床面温度の違いによる裸足の熱画像(撮影:福岡大須貝研究所) (図3)●断熱性のない天井面から頭部に輻遮熱を受けている例


そのためには、室内間の温度差、特に床面付近の温度の低下を防がなくてはならない。建築的対策としては、

a)隙間の生じない気密化対策、
b)床面に低温空気を滞留させる冷たい窓部が原因で生じるコールドドラフト防止のための開口部の断熱強化(複層化)が必要である。
(図1)●主要死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移(※1)

注:「肝硬変」とは「慢性肝疾患及び肝硬変」を示す。

注:「不慮の事故」とは「不慮の事故及び有害作用」を示す。

資料:厚生省「人口動態統計」

(図2)●冬期、床面温度の違いによる裸足の熱画像(撮影:福岡大須貝研究所)

同一人物の足で、向かって左が高い温度(17℃)の床、右は低温(10℃)の床。低温床に触れた足の温度は徐々に低下する。素足居住の日本人にとって、床面の温度の低い環境は不健康な住まいである。

1日の最高気温と総死亡率の関係から、気温が33℃を境目に高齢者(65歳以上・男)は高い死亡率を示す。その理由として、高温による免疫力の低下、高齢者の発汗による水分補給の不足からくる脱水症状、血液循環量の減少に高齢者が耐えられないことなどがあげられており、さらに高齢者はクーラーを嫌う傾向にあるので、クーラーの不使用も原因の一つとされている。(※2)

筆者等の夏季の温度測定では、2階の天井に断熱のない室内では人体の頭部で40℃、足元で22℃の例が見られた(図3)。このような状況が続くと冷房病や自律神経失調症になる危険性がある。その防止策としては屋根、天井部への十分な断熱化、トップライトを設ける場合には非日射面に設けて、かつ十分な遮熱対策を施すことである。